中性色の服ばかり着ている

タイプミスしたら即終了

230131 推しがポマードをつけたら

けっこう前に行ったのにレポにまとめるのを先延ばしにしていた。

心斎橋のTHE FLAVOR DESIGNさんで推しイメージのファブリックミストを作ってもらいました。この卒業証書みたいな筒のケースがまた良い。

推し香水を作ったり買ったりできるサービスは今やいくつもあり、私も一度買ってみたりしているのだが、このお店で作ってもらえるのは香水ではなくファブリックミストである。推しの幻を追い求める者にとってそんな些細な違いは問題にならないだろう。ともかく、こういうサービスについて色々調べてたときに見つけて、けっこう量がありそうなところと、ストンとした瓶やラベルのデザインが気になっていたのだ。

アメ村周辺を通るときっていつもビビってる気がする。普段まったく行かない、なんかセレクトショップ……?がいっぱいあるおしゃれ空間の奥まったところに予約した店舗はあった。中も狭いけどおしゃれで、こういう場所に来たことがない俺はただただ恐縮していた。ソロで来ているのは俺だけで、他の客は友人同士で来ている女性二人と、カップルか夫婦と思われる男女だった。楽しそうな4人の間を肩を細くしながら移動し、気になる香りをチェックする。いくつもの香りのサンプルが棚に並んでおり、その中から気に入った3つをブレンドしてもらうわけなのだがこれが難しい。なぜかというと、それぞれの瓶に香りを表した抽象的な名前(正確には忘れたけどなんとかプールとかなんとかタウンみたいな、そういう情景とか単語1個みたいな感じ)が書いてあるのだが、その他には何の香料が入ってるとかどんな特徴があるといった情報が一切ないのだ。頼れるのは己の鼻だけ。消去法でコレはないなって消せるのはほんの数個で、あとはどれも嗅いでたらなんかいい感じかも……と思えてくる。中には、これとこれ一緒じゃない!?というほどではないもののかなり近い香りもあって、どちらを選んでいいかますますわからなくなってくる。
推しを持つ人ならなんとなく分かってもらえると思うのだが、「元気」「真面目」「不器用」といったラベルをキャラクターに付けることは簡単だが、自分がそいつを好きになった理由はそのラベルとラベルの間にある言葉にできない揺らいだ部分であって、嗅げば嗅ぐほどその香りのどれもが推しの揺らぎ、俺は今までそれをスペクトラムと呼んでいたが今調べたらスペクトルの方が近いかもしれない、とにかく連続して変化する値のどこかしらにあるような気がしてくるのだ。

そんな風に肩身を狭くしながらどうにかこうにか3つに絞り、番号を書いて渡すと、どのくらいの分量で混ぜるのかを嗅いで試させてくれる。調合した香りをつけたムエットを渡され、一度鼻をリセットするため外で嗅いでくるよう言われたのが面白かった。確かに、ずっと中にいると鼻が麻痺してくる。カウンターに並ぶ瓶の中にコーヒー豆が入ったものがあるのが気になっていたが、それも嗅覚をリセットする用で置いているらしい(というのを直接スタッフさんに聞いたのではなく隣の女性二人組に説明しているのを盗み聞きした)。
他の客たちも外気を吸うために入れ替わり立ち替わり外に出ていた。通りすがる人たちになんやコイツらと思われてたら面白いなと思ったが、このへんを頻繁に行き来するシティガールシティボーイには見慣れた景色なのかもしれない。
影がある、男性的、ウッディ、清潔感、らへんの雰囲気があればいいかなと思って香りを調整してもらってたら、何度目かで完全にコーラの香りになった瞬間があって面白かった。確かに香水という感じの爽やかないい香りなのだが、それはそれとして本当にコーラすぎて笑ってしまった。でも男子高校生キャラだし案外こうなのかもと思ったりした。
香りが決まり、瓶が満たされたらいよいよ仕上げだ。このお店で扱っているファブリックミストは、容器がシンプルな代わり、中身に好きな色をつけてくれるのがオタク大喜びポイントだ。それも目の前で注射みたいなやつで少しずつ色を混ぜていく様子が見れて、微調整にも応じてくれる。のだが、これはこれで悩むポイントでもある。推しのイメージカラーは濃い紫(だと俺は思っている)のだが、リアルタイムで混ざっていく様子を見ていると全部正解な気がしてきてなかなかストップと言えなかった。
スタッフの気さくなお姉さんとお兄さんは最後まで気さくで、この人達に向けた調香師の求人があったのかな、知らない世界だなあと思った。
きっちりと仕切りを隔てたカウンターもそうだが、最後、お金を手渡しではなく何かこうクルッとなる金属の部分に入れて渡せるようになっていて(このへんは記憶があやふやなので違ったらすみません)、何のとは言わないけど"以降"にできた施設なのだと改めて感じた……と書こうと思ったのだが今確認したら大阪に店舗できたのが2016年だった。後から仕切りを作ったのかな。最初からこうだったのだとしたらすごい先見の明だ。それとも香りを正確に扱うためには仕切りが必要なのか。香りの世界、まだまだ知らないことだらけだ。

 

で、「頑張るときに嗅ぐ用」の香りが増えた俺はそれからしばらくウキウキで過ごしていたのだが、やがてあることに気づく。
街や電車の中で、似たような匂いとすれ違うことが妙に多いのだ。
最初は自分の服に香りが残ってるだけなのかと思っていたがどうもそうではないらしい。間違いなくこれは自分ではなく他人から発せられている香りだ、そう思ったとき、香る方を振り向くとだいたい年上の男性であることにそのうち嫌でも気づかないわけにはいかなかった。俺は無意識におじさまの香りを選んでいたのか!?
気づいた当初は正直、推しとのギャップに対する困惑が強かった。しかし、色々考えて、今ではやっぱり俺のチョイスの方向性は間違っていなかったのだと思える。ストーリー上多分そうはならないのだろうが、もし彼がスーツを着て働く社会人になったら、きっとこんな香りなのかもしれない、そう思えている。
このことを書こうと思い立ってからなぜかずっと「ポマード」という単語が頭の隅にある。そもそもそれが今も広く男性に使われているものなのかも知らない。身の回りに使ってる人もいない、実物も見たことないし、特徴的な匂いがあるらしいということとボーボボに出てきたポマードリングしか知らないそのアイテムが俺の中でなぜか男性性を表す一つのモチーフみたいになってるらしくて、この単語がスッと出てきたのは多分推しが高校生の時点で制服を着崩していない黒髪七三キャラであることと大いに関係がある。大人になった彼がもしポマードをつけて髪を固めていたら、良いと思うか悪いと思うかはともかく納得はすると思うのだ。今PCの前に現物を持ってきて嗅いでみても、やっぱりそんな感じの、具体性のない男性性に満ちた香りだ。文章だけでうまく伝わるわけはないんだけど、薬草っぽさと線香っぽさが半々くらいのスーッとする匂い。女性か男性かで言ったら間違いなく男性の匂いだ。スーツを着てキマっている男性の持つ、野性味とはまた違う男性性というものについてずっと考えているが、それはもしかしたら性別に由来するものとは全く異なるカテゴリーなのかもしれない。都会の象徴として死んだ顔のサラリーマンの群れ……みたいのが出てくると表面的だなあと思ってしまうのだが、俺もまたスーツを着た男性という概念に対して言葉にできない固定観念を抱いていることは確かなようだ。

何の話だ?
書きながらじっくり嗅いでいると、おじさんの匂いという感じはそんなにしない。もっとシャープで、だけど複雑な匂いだ。線香要素はあるけど若さもある。これあれだ。街中で感じる香りは、ヘッドホンから漏れ聞こえる高音しかわからないシャカシャカの音みたいなもんなんじゃないか。ここにある実物を嗅いでいると、ちゃんと低音まで聞こえるし歌詞も聞き取れる。街中で同じような香りを感じることはあっても、雰囲気が似ているだけで細かいところは全然違うのかもしれない。眼の前で調合されたこの香りが世界に二つとない香りであること、それだけは確かだ。まだ10分の1ぐらいしか減ってないし、これから何度も嗅いでいくうちにまた印象も変わってくるかもしれない。五感の中でも特にこういう言葉で説明しにくい曖昧な感覚は、自分の感じ方が正しいのか不安になってしまうが、曖昧だからこそスペクトルを持つ存在を推すという行為に合致しているのかもしれない。よし、強引だけどなんとかまとめたな。長いな。