中性色の服ばかり着ている

タイプミスしたら即終了

221217 あんしんかばん

今夜は職場の人たちと飲みに行った。いろいろなお酒を飲んで、電車の中でこれを書いている。すでに限界が近い。

この手のキャラにしては珍しく、俺は職場の飲み会が苦ではない。単にお酒が好きなのと、隅っこで酔っ払ってにこにこしていれば意外と何とかなるためだ。普段から家で一人で飲んでるけど、自分では選ばないようなお店に行けるし、運が良ければ経費のときもある。そんな俺でも一つだけ飲みの場でうーんと思うことがある。それはかばんを近くに置いておけないことだ。
俺は要領が悪いのでかばんが無駄に大きいし中もごちゃごちゃしている。そして、自分にとって必要なタイミングでそのごちゃごちゃの中をゴソゴソ探ることができるということに安心を感じている。実際には使わないとしても、それらのごちゃごちゃアイテムをオミット(これ最近俺の中で流行ってるワードね)することのほうが実用的でないと感じる。普通の人間はTPOに合わせてちっちゃいバッグに持ち替えたりするのだろうが、俺にはそれがどうも難しい。だって急に飲み物とか買うかもしれないし。スペースは多いに越したことはない。俺のかばんには未来が詰まっているのだ。

そんな感じの俺とかばんだが、飲み会に行くとその絆は容易に引き裂かれる。みんなが自分のかばんを肌身離さずぴったりと近くにつけている飲み会というのも考えてみるとない気がする。胸襟を開いてゆったりと飲み食いしながら話すためにはかばんや上着は必要ない存在なのだ。俺は近くに置いておきたいな、と思ってても、遠慮せんで置いときー、と言われて気がつくとかばんは俺の手を離れていて、だいたいどの店でもどこかしらにまとまって存在する気の利いた空きスペースか、さもなくばソファをパカっと開けた中の空間とかに吸い込まれてしまう。こうなるともうちょっとやそっとじゃ中をゴソゴソできない。飲酒する前にウコンの力顆粒(これは医学的な処置というよりは祈りや呪術に近い)を飲んでおきたいとかポケットWi-Fiの充電がどれくらいあるか確認しときたいとか、そういうごちゃごちゃした欲求の全ては他人に囲まれている状況ではヤボでしかない。そうして諦めてヘラヘラしながら酒を飲んでいるのは、楽しいけれどどこか「これは本当の経験ではないのではないか」という気がしてしまう。俺が物に縛られすぎているということだ。

上司たちは俺みたいに物に縛られてないんだなあと思う。スマホだって飲み会中は触りすらしない。純粋に仕事や酒の話をしている。飲みすぎてヤバい目に遭った武勇伝とか、仕事や付き合いでの飲酒で夜遅くなるためホテルやタクシーを頻繁に利用するという話を聞いていると、そういうのありなんだ、すごいな、とどこまでも他人事のように思う。一人の酒好きとして、酒で無茶したり失敗した武勇伝は少なければ少ないほどいいと思っているのだが、あっ……皆そんな感じなんすか? と思う。酒でしか得られない経験があるなら俺もそんなハチャメチャを経験してみたいとも思う。でもさ……あー俺はもうわからん。ただそんなハチャメチャができる大人は、アルコール分が全くなくても同じように、日頃の自分を乗り越えて、状況に応じて少しだけ羽目を外すということができるのだと思う。俺にはできない。日本人にはお酒強い族と弱い族と無理族がいて、俺は弱い族なんだけど、たとえ強い族や無理族だったとしてもきっと同じように、隅っこでヘラヘラして時々お冷やを頼んでるだけなんだろうと思う。
必ずしもそれが悪いことだとは思わない。いつも不思議なのだが、強い族の上司たちは全く水やソフトドリンクを頼まないがあれで平気なのだろうか? 俺は平気じゃないので何度もお冷やを頼む。それは決して恥ずかしいことではない。できないことはしない。

店を出て、夜風うめーと思いながら駅に向かうほんの数分の道中に、俺と同じようにフラフラしてる奴らがたくさんいて、なんか楽しそうにわめいてる声が聞こえる。それを感じるたびにやっぱりどこか他人事のように感じてしまう。俺が家で酒を飲んで一人でニコニコしている夜と、誰かが誰かと外で酒を飲んではしゃいでいる夜とは、確かに同じ世界で地続きに存在しているはずなんだけど、どうにもピンとこない。それならばやはり一人ぼっちでかばんを抱きしめて、お冷やと一緒にちびちび飲んでいたいと思うのだった。